無農薬米づくりへの挑戦記③|厳冬期をたくましく生きるヘアリーベッチ

私は、長野県伊那谷で20年以上、
無農薬・減農薬米づくりに向き合ってきた米農家です。
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伊那市の厳しい冬、田んぼでは次なるお米作りに向けた「静かな、しかし力強い闘い」が続いています。今回は、緑の肥料(緑肥)として育てているヘアリーベッチの冬の表情を追いました。
始まりは鮮やかな緑。秋に蓄えた生命力
10月末、種をまいたヘアリーベッチはまだ柔らかな緑色をしていました。この時期の役目は、地中の根をしっかりと広げ、冬の寒さに備えるための体力を蓄えること。稲わらの間から顔を出すその姿は、まだ幼いながらも瑞々しい生命力に溢れています。

氷点下7.7度の試練。雪を被って耐える朝
年が明け、2026年1月3日。深夜から降り積もった雪が田んぼを覆い、朝日が昇る頃の気温は氷点下7.7度まで下がりました。温度計の数字が示す通り、凍てつくような寒さです。しかし、ヘアリーベッチはこの雪の布団の下で、じっと春を待っています。

雪の結晶と共生する、たくましき姿
雪の中から顔を出した葉先には、真っ白な霜の花が咲いています。一見、凍りついて枯れてしまいそうに見えますが、これこそがヘアリーベッチの強さです。寒さに負けず、自らの細胞を守りながら冬を越すその光景には、自然の命のたくましさを感じずにはいられません。

緑から紫へ。冬にだけ見せる「極限の生存戦略」
雪が少し落ち着いた1月6日、ヘアリーベッチの葉は10月のような瑞々しい緑ではなく、深い紫色に染まっていました。一見すると枯れかけているようにも見えますが、実はこれこそが、植物が自らを救うために発動させた**「極限の生存戦略」**なのです。
冬の寒さが厳しくなると、植物の内部では代謝が落ちる一方で、降り注ぐ日光が逆に「毒」になるという矛盾が生じます。光合成で得たエネルギーをうまく処理できなくなり、細胞を傷つける「活性酸素」が発生しやすくなるのです。
そこでヘアリーベッチは、自らの体内で**「アントシアニン」**という色素を合成します。この紫色の色素には、主に3つの重要な役割があります。
- 天然の日傘(光保護): 過剰な紫外線を吸収し、細胞のダメージを防ぐシールドになります。
- 不凍液の効果: 細胞液の濃度を高め、氷点下7.7度という過酷な環境でも細胞が凍りつくのを防ぎます。
- 熱の吸収: 色を濃くすることで太陽の熱を吸収しやすくし、わずかながらも自身の体温を維持しようとします。
この紫色の変化は、決して「弱っている姿」ではなく、春に再び爆発的に生長し、田んぼを豊かな緑で埋め尽くすための**「エネルギーの貯蔵」であり、厳しい冬を戦い抜く「防御の証」**なのです。


