発酵肥料作りから学んだ、土作りのこだわり —— 20年の試行錯誤が辿り着いた「無肥料」の境地

発酵肥料作りから学んだ、土作りのこだわり —— 20年の試行錯誤が辿り着いた「無肥料」の境地

発酵肥料ってどんな肥料

2003年から無農薬栽培を始め、最初に取り組んだのが、除草と有機発酵肥料作りでした。2004年から2008年まで当農家の自家製発酵肥料は味噌と同じく、三段階芳醇発酵に挑戦しました。この発酵肥料作りに挑戦した理由は、発酵工程を学び、理解する為でした。「発酵肥料のつくり方・使い方」(著者:薄上秀男氏)を参考にしました。

有機態を無機化するのではなく、その発酵過程で微生物が作り出してくれる各種のアミノ酸・ホルモン・酵素・ビタミン・有機酸、その他の生育促進物質を利用するのです。それらの物質を、発酵させた有機質肥料にいかにたくさん蓄積し、作物に施してやることができるかが重要です。有機肥料を施すというより、有機肥料をエサとして世代交代を繰り返した微生物と、その生成産物を施すといったほうが正確かもしれません。そこで学んだのは、微生物が有機物を分解し、植物が吸収しやすい形に変えるメカニズムでした。

発酵肥料の作り方

発酵肥料ができるまでの過程

発酵肥料を作っていた場所

発酵肥料の適期は冬。農閑期を利用して、家の裏にあるビニールハウスの中で作っていました。
根気とスコップ、体力それに情熱だけが頼りです。

発酵肥料を作っていたハウス

材料

米ぬか・菜種油粕・魚粉・骨粉などの有機物と、こうじ菌、酵母菌

無農薬米農家が自作する発酵肥料の材料の米ぬか
無農薬米農家が自作する発酵肥料の材料の魚粉
無農薬米農家が自作する発酵肥料の材料の菜種かす

材料の混合・山積み

有機物材料に水を加えて、混合します。混合物を山積みします。この時、山の真ん中にこうじ菌を入れておきます。

発酵肥料の材料を混ぜている小牧久幸
発酵肥料を山積みしている小牧久幸

発酵第一段階 糖化作用

 こうじ菌によって、有機質材料のデンプンをじっくり分解し、ブドウ糖や乳糖などの糖に変えていきます。この糖はあとの菌が食べて働く為の食料となります。この段階では菌の綿毛状のコロニーが表面に現れます。

発酵途中の有機材料
有機材料が菌糸で覆われている様子

発酵第二段階 分解作用

第一段階の発酵により、高温になってくると、こうじ菌は死滅し、納豆菌が活動を開始します。納豆菌は空気中や稲わらにいるので、あえて種菌を加えなくても自然に入り込んできます。納豆菌はアルカリ性の強力な分解酵素を出して、タンパク質をアミノ酸に、脂肪を脂肪酸やグリセリンに、分解しにくい多糖類もブドウ糖や単糖類に分解します。温度は70℃位まで上昇し、肥料の色は黒っぽくなってきます。

発酵中の材料の温度は70℃ぐらいまで上昇するので、湯気が立っている様子
発酵第三段階が終わった発酵肥料の内部の様子

発酵第三段階 成酸・アミノ酸合成作用

切り返しを数回繰り返すうちに温度が下がってきたら、酵母菌を加えます。有機ミネラル化合物を作ると同時に、無機栄養も摂取して菌体内でアミノ酸やタンパク、ビタミン、酵素、核酸など植物に活力を与える有機栄養を合成します。完成した発酵肥料は塊が出来て内部まで酵母菌が回り白くなっています。

完成した発酵肥料に塊ができている様子
内部まで酵母菌が回り、白くなっている様子

この有機発酵肥料で育った稲の特徴

この有機発酵肥料で作ったコシヒカリには独特の特徴がありました。この特徴については、参考にした本の著者である、薄上さんも本の中で、書いていました。

一般的には化成肥料ですが、我家では農閑期の冬に有機物や化成肥料を微生物の餌にして、自家製の発酵肥料を作り、使っております。発酵肥料を使った米は精白してもアメ色を呈し、品質(特にビタミンB群が豊富)・食味がいいと言われております。

有機発酵肥料で栽培したお米はアメ色を呈している
有機発酵肥料で栽培したお米
一般の化成肥料を使ったお米は白い
一般の化成肥料を使ったお米

稲穂の先端のもみの野毛ですが、コシヒカリでは一般的にはあまり長い野毛は見られません。しかし、発酵肥料で育ったコシヒカリには長い野毛を持つ稲穂が多く見られます。なぜそうなるかはわかりません。

発酵肥料で育った生命力溢れるコシヒカリの籾の野毛
有機発酵肥料で栽培した稲
化成肥料で育ったコシヒカリの精米後の色は白色
化成肥料を使って栽培した稲

肥料作りで学んだ「自然の営みを取り込む」という栽培方法

かつて私は、米ぬかや魚粉などを三段階で発酵させる、独自の有機肥料作りに没頭していました。その経験を通じて辿り着いた一つの答えがあります。

それは、**「お米に施す肥料は、味付けをする調味料のようなものではないか」**という疑問でした。

私は、肥料の力でお米に特定の味を付けたいのか? それとも、信州伊那谷の厳しい冬、清らかな水、そしてこの地の土壌が織りなす「お米本来の素(す)の味」を求めたいのか。自問自答の末、私の心は後者へと動いていきました。

自然のサイクルを、そのまま田んぼへ

薄上秀男氏はその著書で、「自然の営みを取り込むこと」について、以下のように言っています。

「自然の営みを取り込むこと」季節の移り変わりによっても、その場所で活躍している微生物が違います。冬は糸状菌、春は乳酸菌、夏は細菌、秋は酵母とその活性を強めているような気がします。 山ー畑・牧野ー水田ー果樹と、活動の舞台も変わってきます。この自然のサイクルを」そのまま取り込んだのが、私の発酵肥料作りです。。

私がかつてハウスの中で行っていた発酵肥料作りは、まさにこの「自然のサイクル」を凝縮して取り込む作業でした。そして今、私はその原理を、ビニールハウスの中から**「田んぼ全体」**へ応用できないかと考えました。

「土ごと発酵」から「窒素爆発」へ

現在の私のスタイルは、かつての肥料作りの工程を、冬の田んぼそのもので再現する栽培方法です。

  • 冬期複数回耕起(土ごと発酵): 厳冬期に何度も土を動かし、酸素を供給することで、稲わらを「生の有機物」から、微生物の力による「良質な貯金(有機態窒素)」へと作り替えます。
  • 春の入水(窒素爆発): 土を乾かし抜いた後の入水により、蓄えられた力が一気にアンモニア態窒素へと姿を変える「乾土効果」を呼び起こします。

これは、外部からの資材に頼るのではなく、自然の営みを最大限に利用して稲のポテンシャルを引き出す「ただ自然任せで、見守る自然栽培」ではなく、「能動的介入の自然栽培」です。かつてハウスで学んだ微生物の躍動を、今は広大な田んぼの土の上で、伊那の風土とともに感じています。

2003年から2017年までの14年間の歳月を経て、2018年にようやく私は「お米本来の姿」を支える”こだわりの土つくり”を手に入れました。

20年に渡るクログワイとの死闘や、イトミミズが作るトロトロ層の発見など、私の米作りの歴史のすべてはこちら↗

「この『土ごと発酵』を実践し、収量をV字回復させた具体的なデータと、現在の冬期複数回耕起の記録については、以下のページで詳しく公開しています。」 [冬期複数回耕起の実証データと栽培記録はこちら]

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