2010年の栽培記録と気象データ

2010年の栽培記録と気象データ

【2010年】無農薬米の作柄と栽培記録|伊那谷の気象データ(農家直販)

当農家では20年以上にわたり無農薬米を農家直販でお届けし、毎年の栽培記録と気象データを公開してきました。これは、安心して選んでいただけるよう「栽培の透明性」を大切にしているためです。

このページでは、2010年の無農薬米(自然栽培)の作柄と、伊那谷の気象データ(気温・降水量・日照時間)をまとめています。農家直販ならではのていねいな栽培履歴をご確認いただけます。

2010年 伊那谷の気象と一般的な作柄傾向

2010年は伊那谷を含む南信地域の水稲作柄が 「平年並み」 と評価されている年でした。南信地域全体の水稲作柄について、長野農政事務所が毎年発表する作柄概況でも、8月中旬時点で「平年並み」と見込んでおり、温度や日照、降水量に大きな異常がなかったことが示されています。

一方で、北半球全体では2010年に記録的な夏の高温や異常気象が各地で観測されていました。特に夏の高温傾向は世界規模で確認されており、日本でも地域によっては日照や気温の影響が強く出た可能性があります。

伊那市周辺の気象から読み解くと、季節ごとに極端な低温や大雨の局所的な被害がなかった反面、暑さや日照が安定していたことが想定されます。 このため、一般的な平年並みの作柄傾向となったと考えられ、市場に出回る米の評価も大きく崩れることはありませんでした。

2010年の作柄と不耕起田への挑戦 ― 私自身の考察

1.2010年、伊那谷の気象と一般的な作柄を踏まえて

2010年の伊那谷は、春先の低温と、その後の気温上昇がはっきりした一年だった。
田植え時期はやや慎重さを要したものの、夏以降は気温が安定し、登熟期には日照にも恵まれ、一般的には「平年並みからやや良好」と評価される作柄だったと記憶している。

このような年回りの中で、我が家は前年までの試行を踏まえ、全圃場で冬期湛水を行い、不耕起田・半不耕起田での栽培に本格的に踏み込んだ年となった。


2.冬期湛水とトロトロ層の形成

2009年秋、収穫を終えた田んぼは耕さず、そのまま稲藁を残した状態で、11月中旬から冬期湛水を始めた。
5か月半にわたる湛水期間を経た春の田んぼは、前年とは明らかに様子が違っていた。

一面を覆っていた稲藁は、見た目にはほとんど消え、水中を覗くとイトミミズやエラミミズの巣穴が無数に見られた。
表面の泥をすくってみると、分解された稲藁の上に、ミミズの糞が堆積したトロトロ層が形成されていた。

このトロトロ層は、耕すことで作るものではなく、
冬期湛水と生き物の働きによって自然に作られた層であり、私にとっては初めて「土が自ら育っている」と実感できた瞬間だった。

秋、収穫後は田んぼ一面、稲わらで覆われています
一見、昨年の秋に見た稲わらが、分解され、無くなっているように見える
水中を覗くと、ボコボコとしたミミズの巣穴らしき、土の盛り上がり

3.藻類の発生と、生きものの田んぼ

気温の上昇とともに、我が家の不耕起田・半不耕起田では、緑藻類が水面を覆うようになった。
ワラを土中にすき込まず、水中で分解させることで、藻類が繁殖しやすい環境が生まれた結果だと考えている。

藻類は光合成によってCO₂をO₂に変え、水中に大量の酸素を供給する。
その結果、動物性プランクトンが増え、ミミズをはじめとする生物が活発に活動し、田んぼ全体が巨大なビオトープのような状態になっていった。

一方で、一般的に耕起し、農薬や化成肥料を使って管理された田んぼでは、藻はほとんど発生しない。
比較写真を見ると、我が家の田んぼが「生きもののいる水田」であることは一目瞭然だった。

4.ついに踏み出した、不耕起田への田植え

トロトロ層が十分に形成され、「このまま田植えができるのではないか」という思いが日に日に強くなっていった。
それでも感情を抑え、多くの田んぼでは表面を浅く引っ掻く程度の代掻きを行った。

しかし、最後に残った一枚の田んぼで、ついに私は完全な不耕起田への田植えを実行した。
昨年の稲株のすぐ脇に苗を植え込む場面もあり、「世代交代」という言葉が頭に浮かんだ。

苗が倒れたり、スズメノテッポウが邪魔をしたり、決してきれいな田植えではなかった。
それでも、手で直しながら進めたその作業は、これまでにないほど楽しく、忘れられない時間となった。


5.この年を境に変わった、我が家の米作り

早朝、カメラを持って田んぼに立ったとき、
昨年の稲株が残るそのままの田んぼに、今年の稲が植わっている光景を見て、私は強く心を打たれた。

代掻きで完璧に整えられた田んぼに比べれば、
「なんじゃこりゃ」と言われても不思議ではない風景だったと思う。
それでも、私にはこれ以上ないほど美しく見えた。

2010年の不耕起田植えは、「作業を省くための技術」ではなく、
自然の仕組みに任せることで結果的に成り立つ米作りへの第一歩だったと言える。

この経験以降、我が家の米作りは、

どこまで人が手を入れるか
ではなく、
どこまで自然に任せられるか

を考える農業へと、はっきりと方向転換していった。

2010年は、作柄以上に、
米作りに対する自分自身の価値観が決定的に変わった年だった。

我が家の圃場における2010年の栽培と観察

冬期湛水と発酵鶏糞施用の土壌変化

昨年の経験から、2009年の収穫後に全圃場に 不耕起で発酵鶏糞を150kg/10アール 散布し、11月中旬より冬期湛水を敢行しました。田んぼ一面に残っていた稲藁は、5ヶ月半もの冬期湛水の間に、表面からはほとんど見えなくなるほど分解が進んでいました。

水中を覗くと、無数のミミズによる「ボコボコ」とした巣穴が確認され、トロトロとした有機物が微生物とともに層を作っていました。この土の層は、ミミズの排泄物によるもので、私たちはこれを「トロトロ層」と呼んでいます。 この層は天然の肥料として非常に効果的で、施肥だけでは得られない土壌構造の改善が見られました。

秋、収穫後は田んぼ一面、稲わらで覆われています
一見、昨年の秋に見た稲わらが、分解され、無くなっているように見える
水中を覗くと、ボコボコとしたミミズの巣穴らしき、土の盛り上がり

冬期湛水と雑草管理

冬期湛水による効果として特筆すべきは、藻の発生による雑草抑制効果です。田植え後およそ半月が経過する頃、冬期湛水していた圃場一面には緑色の藻が広がりました。通常であれば雑草と稲が競合しますが、この藻が水面を覆うことで光が遮られ、水中でヒエなどの雑草が大きく育つことはありませんでした。

藻の発生は一見すると管理の手間を増やすように思われがちですが、藻そのものが「自然の遮光材」となり、雑草の生長を抑える働きをしていると私は捉えています。 この雑草抑制効果は、冬期湛水による土壌環境改善と相まって、一定の抑草効果をもたらしました。ただし、この年は冬期湛水が短期間であったため、雑草の種子が完全に死滅するまでには至らず、局所的には除草作業を行いました。


不耕起田への田植えとその感動

冬期湛水でトロトロ層が形成された土壌は、通常の不耕起では田植えが難しいと思われたにもかかわらず、普通の田植え機で植えられる可能性を感じさせるものでした。 そのため私は浅く代掻きをしてから田植えを進めましたが、最終的には一番重要な一枚だけ「本格的不耕起」として機械で植える挑戦をしてしまいました。

当然、昨年の稲株に寄り添いすぎてしまう場面や、スズメノテッポウが田植え機の行く手を阻む場面もありました。うまく刺さらずに倒れてしまう苗もありましたが、それすら今日の感動の一部でした。 手作業で植え直しつつ進める中で、私は「これは自己満足ではなく、農業の新しい可能性なのではないか」と確信に近い感情を抱きました。

冬期湛水後の不耕起田に普通の田植え機で田植え
この残りの一つの不耕起田に田植えをしたいという抑えきれない感情が噴出して。。。
昨年の稲株に寄り添うように、植わっている今年の稲の苗
やってしまいました。普通の田植え機で、不耕起田へ田植え
トロトロ層に突き刺さらず、横になっている苗
たまには、うまく植え付けできず、こんな場面もありました

まとめ

一般的な伊那谷における2010年の水稲作柄は、「平年並み」と評価され、気象条件にも大きな異常は見られませんでした。

その一方で、我が家では冬期湛水+トロトロ層の形成が実際に土壌環境を改善し、雑草管理や田植え作業にポジティブな影響を与えた年でした。 この経験は、単なる栽培記録にとどまらず、今後の不耕起農法や自然栽培の可能性を切り開く非常に意味深い一年となりました。

① 2010年はなぜ不耕起田植えが可能になったのか(結論型まとめ)

2010年に不耕起田への田植えが実際に可能になった最大の要因は、2009年秋から冬にかけて行った全圃場での冬期湛水と、有機物(土中有機物・発酵鶏糞)の分解が、生物の働きを通じて安定した「トロトロ層」を形成したことにある。

2009年の収穫後、田んぼ一面は稲藁に覆われていたが、11月中旬から冬期湛水を行い、約5か月半にわたり水を張り続けた。その結果、冬期湛水期間中に稲藁は水中で分解が進み、表面からは姿を消したように見える状態になった。しかし実際には、稲藁は表層土の下に残り、発酵鶏糞を餌としてエラミミズをはじめとする土壌生物が大量に活動していた。

冬期湛水田にて、手ですくった稲わらの上のトロトロ層
手ですくったトロトロ層にエラミミズがいっぱい
手ですくったトロトロ層にエラミミズがいっぱい

水中にはミミズの巣穴が無数に確認でき、ミミズが排泄した糞が稲藁の上に堆積することで、柔らかく粘性のあるトロトロ層が形成された。このトロトロ層は、単なる有機物の堆積ではなく、

  • 土中有機物由来の炭素
  • 発酵鶏糞由来の窒素・ミネラル
  • ミミズによる物理的攪拌と分解

が組み合わさった天然の緩効性肥料層であり、同時に苗を受け止める「柔らかい床」として機能していた。

気温の上昇とともに、このトロトロ層の形成はさらに顕著になり、田植え前には「通常の田植え機でも植えられるのではないか」と感じるほどの状態にまで成熟していた。結果として、代掻きを行わなくても苗が沈み込み、根が定着できる条件が自然に整っていたのである。


② この経験が翌年以降どうつながったか(実践と思想の転換)

2010年の不耕起田への田植えは、単なる一度きりの挑戦ではなく、我が家の米作りの考え方を根本から変える転換点となった。

それまでの自分の中では、
「田植え前には代掻きをするもの」
「耕して、均して、きれいに仕上げることが良い田んぼ」
という意識が、どこか当たり前の前提として存在していた。

しかし、冬期湛水を続け、生き物の働きによって自然に作られたトロトロ層の上に苗が植わり、稲が問題なく活着していく様子を目の当たりにしたことで、田んぼは人が作るものではなく、生き物と時間が作るものだという実感が、はっきりと自分の中に芽生えた。

不耕起田への田植えでは、確かに、

  • 植え付け位置がずれる
  • 昨年の稲株のすぐ脇に苗が入る
  • 苗がうまく刺さらず倒れる

といった、従来の「整った田植え」から見れば不格好な場面も多くあった。しかし、それらはすべて、前年の稲株から次の世代の稲へと命が受け渡されていく過程として受け止めることができた。

冬期湛水後の不耕起田に植え付けられた稲の苗

また、冬期湛水によって形成されたトロトロ層は、雑草抑制や地力維持にも大きく寄与し、翌年以降は、

  • 除草作業の軽減
  • 肥料投入量の見直し
  • 耕起・代掻き作業の簡略化

へと確実につながっていった。

2010年の不耕起田植えは、「作業を省くための技術」ではなく、自然の仕組みに任せることで結果的に成り立つ米作りへの第一歩だったと言える。この経験以降、我が家の米作りは、

どこまで人が手を入れるか
ではなく、
どこまで自然に任せられるか

を考える農業へと、はっきりと方向転換していった。

圃場別栽培条件

圃場(正式名)一本松5488一本松5491中原5513-2中原4843中原8863
圃場ABCDE
作付品種コシヒカリ / 古代米 / 白毛もち米白毛もちコシヒカリコシヒカリコシヒカリ
栽培方法肥料(発酵鶏糞)→不耕起田へ冬期湛水→不起耕田へ田植え→除草肥料(発酵鶏糞)→不耕起田へ冬期湛水→不起耕田へ田植え→除草肥料(発酵鶏糞)→不耕起田へ冬期湛水→不起耕田へ田植え肥料(発酵鶏糞)→不耕起田へ冬期湛水→不起耕田へ田植え元肥料無し→不耕起田へ冬期湛水
備考

2010年の栽培記録

日付作業内容圃場備考
2009/11/8元肥散布B発酵鶏糞300kg
2009/11/8元肥散布C発酵鶏糞300kg
2009/11/8元肥散布D発酵鶏糞450kg
2009/11/8~元肥散布無しE
2009/11/8~冬期湛水C
2009/11/8~冬期湛水D
2009/11/12~冬期湛水E
2009/11/14元肥散布A発酵鶏糞375kg
2009/11/15~冬期湛水A
2009/11/15~冬期湛水B
2010/3/28~4/8浸種屋外
2010/4/11播種ハウス
2010/4/17~5/14プール育苗ハウス
2010/5/8代掻きA
2010/5/8代掻きB
2010/5/9代掻きE
2010/5/11代掻きせずD
2010/5/15田植えA
2010/5/15田植えB
2010/5/15~9/4水管理A
2010/5/15~9/4水管理B
2010/5/15~9/4水管理E
2010/5/16代掻きC
2010/5/16~9/4除草不要E
2010/5/16田植えE
2010/5/21田植えC
2010/5/21田植えD
2010/5/21~9/4水管理C
2010/5/21~9/4水管理D
2010/5/21~9/4除草不要C
2010/5/21~9/4除草不要D
2010/6/5除草A
2010/6/5除草B
2010/9/5落水A
2010/9/5落水B
2010/9/5落水C
2010/9/5落水D
2010/9/5落水E
2010/9/19稲刈りE
2010/9/19~10/1乾燥E
2010/9/20~9/28乾燥C
2010/9/20稲刈りC
2010/9/21稲刈りB
2010/9/21稲刈りD
2010/9/21~9/22乾燥B機械乾燥
2010/9/21~9/22乾燥D機械乾燥
2010/9/25~10/2乾燥Aコシヒカリ
2010/9/25稲刈りAコシヒカリ
2010/10/3脱穀Aコシヒカリ
2010/10/11稲刈りA白毛もち
2010/10/17脱穀A白毛もち米

2010年 伊那市の月ごとの気象データ

平均気温 (°C) 降水量 (mm)
1月6.046.0
2月7.5131.5
3月11.5238.0
4月7.0176.5
5月12.5219.0
6月10.5192.0
7月18.0226.5
8月36.5112.5
9月19.0198.0
10月10.0174.0
11月5.551.0
12月7.0107.5

【作柄】

生育初期では土壌水分が豊富であったが、夏にかけては8月の降水が少なく、やや乾燥気味。
その結果、分げつは良好だったが、品質面では一部で登熟不十分が見られた。

収量: 平年並み〜やや低め。
品質: 一部で未熟粒や白未熟粒が増加の傾向。

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